ベーリング海峡を見るのを目的に訪れたノームで、実はトンデモナイ女の子に会った。
冷たい雨の降る飛行場から乗合タクシーを飛ばして宿泊先へ。玄関ドアを開けて大きな声でハローと叫んだら、20歳前後のちょっと色黒の女の子が出て来た。
「今、オーナーさんは外出してて、夕方まで帰りません。お客さんの部屋は多分奥のドアの部屋ですから、勝手に入ってください」
「ありがとう。ここの娘さんじゃないんだね。どこから来たの?」
「カナダのアルバータから来ました、飛行機で」
ここはアラスカの他の町と陸路では繋がってないから、確かに飛行機で来るしかない。
「そうなんだ。旅行中なの?」
「旅行中っていうか、、、天候が回復するの待ってるんです」
ナニイッテンダカ、、、
「今日だって飛行機飛んでるよ、雨降ってるけど」
「私の飛行機は小さいから、こういう天候の時は無理なんです」
変なこと言う子だなあ、、、
「天気が回復したらどこ行っちゃうわけ?」
「ロシアに寄って、インドに帰ります」
おちょくってんじゃないの?それとも、この子、大丈夫なんだろうか。ここからロシアへ行く定期便なんてあるわけないし、自家用機でもない限り無理な話だよ。この子が大金持ちのお嬢様で召使いが自家用飛行機を操縦して、、、いやいや、もしそうなら、こんな安宿にいるわけない。じゃあ、この子が自分で小型飛行機操縦して、、、アンビリーバーブー!!!
「あの、君が自分で飛行機操縦してここまで来たんじゃないよね、、、」
「自分で操縦して来ました」
「んじゃ、君って、パイロットのわけ?」
「はい」
「で、次はロシアって、ベーリング海峡渡らなくちゃいけないんだよ。俺も行きたいよ。一緒に連れてってよ」
「すいません。飛行機二人乗りで私の荷物がたくさんだから、乗せられないんです」
世の中、色々な人がいるもんだ。今回の旅でも色々な人に会った。でも、インドのこの子、名前はアールオゥヒ・パンディットさん、アールって呼べばいいらしいんだけど、まだあどけなさが残ってるからアールちゃんと呼んでもいいくらいの娘っ子が、一人で飛行機操縦して、この後、ベーリング海峡を飛び越えてインドに帰るって、いやはや、びっくりしました。
ーなんでパイロットになったの?
速いのが気持ちいいんです。それに、どこにでも飛んでいけるから楽しいし。
ー怖くないの?
私の飛行機は車よりちょっと速いくらいだから、怖いと感じたことはあんまりありません。空高く飛んでると、とっても気持ちいいんですよ。
ーパイロットになることに、お家の人は反対しなかったの?
父は強く反対しましたけど、何回も何回も話し合って許して(諦めて)もらいました。家にはしょっ中、連絡してます。さっきもお父さんと話したし。
ー自家用飛行機持ってるなんて、君の家はチョーお金持ちなんだね。
飛行機は自家用じゃなくて、私が所属している会社のものです。でも、乗るのは私だけだから、実質的には自家用みたいなものですけど。父は清掃関係の会社を経営してますがリッチじゃないです。母は専業主婦。姉は法律の勉強をしています。
ートイレとか食事はどうしてるの?
飛行前の飲食は我慢します。食事はスナック菓子みたいなもので済ませます。
ーストイックだねえ。具体的な目標みたいのはあるの?
女性の世界一周飛行の最短記録を更新することです。今回の飛行も世界一周の途中なんです。私は二つの世界記録(女性単独大西洋飛行、同じくグリーランド飛行)を持ってるんですよ。
ーそれじゃ、インドじゃ有名人なんだね。
有名じゃないです。でも、私のこと知ってる人はたくさんいるかも。
ー日本には来ないの?
そのうち行きたいです。でも、日本は飛行場の許可が簡単に取れないんです。
ーそうかあ。でも、もし来ることあったら、ぜひ小型飛行機で来てね。私も日本一周飛行のお伴したいから。体重減らして楽しみに待ってるよ。
はい。分かりました。体重は40キロくらいでお願いします。