おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(33) 荒野の続き

 アラスカは確かに遠のいてしまったけれど、アラスカから続く荒野、いや、荒野という言葉が相応しいのかどうか分からないけれど、次に目指すべき目標はすでに三つあるんだ。

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 一つは「フランク安田の交易所を保存するためのクラウドファンディングを立ち上げる」ということ。このブログの(10)「ユーコン川の畔にて ー フランク安田の偉業」で書いた通り、フランク安田のなしたことーー村人を病魔から救い、新しい土地を開拓して村の経済を支えたーーこれは野口英世に匹敵する偉業だと思うし、その舞台の一つが交易所だ。交易所を残すことは、そのままフランク安田の偉業を後世に伝えることにつながる。黒部で拾った流木は「連れて帰って」と私にせがんだけれど、アラスカの寒村で人知れず朽ち果てようとする交易所は「なんとかしてくれ!」と私を急き立てるんだ。自分一人の力ではとてもできることではないから、有志を募ってクラウドファンディングを立ち上げる。微力はもとより身にしみているのだけれど、何かしなくちゃいけない。日本のため、文化のため、若い人たちのためにね。

f:id:ilovewell0913:20191224201509j:plain 二つ目。アラスカ旅行の最後の方から、夢は枯野どころではなく、実はヒマラヤの山々を駆け巡っていた。登山の場合、下山中に次はどの山に登ろうかと考え始めるもので、今回も例外じゃなかった。アラスカ関係の本は本棚のすでに後列に退き、前列にはヒマラヤ本が着々と増えている。アラスカがそうであったように、山と自然を求めて訪れるヒマラヤでも、人との出会いがより大きな感動を与えてくれるのかもしれない。異文化に触れるというより、我々の文化のルーツを探るという意味合いの方が大きくなるのではないか。ヒマラヤでは、どんな出会いが待っているのだろう。どんな縁に導かれるのだろう。そう遠くない将来、つまり、頭と足腰がしっかりしているうちに、性懲りも無く、誰が何と言おうと、それまでに貯まるはずのヘソクリをはたいて、多大な期待を胸に、子供の頃からの垂涎の的であったヒマラヤに、私は行くだろう。

 

 三つ目がもしかしたら一番大変かもしれない。帰国後、私は介護の講習を受けた。介護タクシーの運転手になろうと考えているのだ。単なる介護タクシーじゃない。介護界のトライ、そう、「明るく・のびのび・ザックバラン」の介護タクシーを密かに目指してる。なんで介護なのか。うーむ。やはり、それも「縁」というものか。母親が世話になったヘルパーのTさん、その人の存在が大きい。私は親不孝で愚鈍であったけれど、その分をTさんが助けてくれた。この恩はTさんには返しようがない。だけれど、受けっぱなしというのも気がかりだ。そうだ、誰かに返せばいいんだ。山に与えられた恵みを山に返すように、介護で受けた恩は介護の世界で返せばいい。よろよろ歩いているジイちゃん、寝たきりのバアちゃん、みんなそれぞれの人生を生きてきた。そんなジイちゃんやバアちゃんの近くにいて、その人の生きてきた人生を感じることができたなら、それは地平線遥かに広がるツンドラを見てるのと本質的に変わりないと思う。アレンみたいな元気で頑固な爺さんに会えるかもしれない。ユーコンのほとりで話したバアちゃんのように、自分の生まれたとこが世界で一番と思っているバア様もいるに違いない。初めてアラスカに足を踏み入れた時のように、介護という、自分が知らない新しい世界に踏み込む。お前にはムリだという声が外野から聞こえてきそうな気もする。自分がどれくらい役立つのかは全く分からない。だけど、とにかくやって見る。肩に力が入り過ぎないように注意して。

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 旅をしていて不思議に思うのは、考えていたこと、計画していたことが、少し違ったりはしても、多かれ少なかれ現実になるということだ。例えば、ある土地に行く計画を立てたとする。予定の日が近づいてきて、一週間後にはその町にいることになっていても、どうにもピンと来ない。本当に行けるんだろうか。遠い近いや行きやすい行き難いはあまり関係ない。ただ単に「本当にそうなるんだろうか」と感じてしまう。自分で考えたことなのに、当の自分が訝しがっている。そんなふわふわした思いとは無関係に、時が経ち、行動した結果として、その町にたどり着く。当たり前といえば当たり前、当然至極のことだ。しかし、さっきまでイメージの中にしかなかった町の内側に自分がすでに入り込んでいると思うと、この"当たり前"が摩訶不思議に感じられる。自分の想像力が現実を生み出したかのような妄想に一瞬なりとも囚われるのだろうか。旅人ならではの想像と現実の邂逅(かいこう)。三つの新しい荒野も、今はどれも自分の頭の中にしかないけれど、いずれ、それなりに形になるのだろう。その形が、少しでも望んだものに近くなるように、さあ、忙しくなるぞ。病気なんかしてられないぞ。若い奴らに負けてなんかいられないぞ。

 

                                                                                                                                 

 

 一年にわたりお届けしました「おやじは荒野をめざす カナダ編・アラスカ編」、元々はトライの課外授業番外編として始めたものですが、今回で一応のピリオドといたします。これからのことは例によって大して考えておりませんが、トライのみんなに伝えたくなるような"何か"があったら、再びキーボードを叩き始めるかもしれません。それじゃみんな、元気でな。しっかり勉強しろよ。ちゃんと仕事しろよ。もし、なんか相談みたいのあったら、遠慮なく連絡してこいよ。

                    ベランダに来たシジュウカラを眺めながら

                              トライ主宰 井上 潔

                                       

 

 

 

(32) 先生、お帰りなさい!

 

 アラスカがどんどん遠ざかっていく。

 

 インサイドパッセージと呼ばれる、アラスカ南岸の多島海を縫うように走る航路をフェリーで南下して2日目。後ろに過ぎ行く島影と時の流れが同調しているかのように感じられて、何とも心地よい。スプルースの森に覆われた大小数え切れないほどの島々は、波打ち際の様子、背後の森の深さからして、ほとんどは無人島のようだ。島々に挟まれた航路には適度な間隔で色鮮やかなグリーンのブイが浮かび、船は鏡のような水面に白い帯を残してすり抜けていく。

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 そんな情景を思い出しなんがら一人静かに旅の余韻を楽しんでいたら、ドタドタと教え子のNR君、MSさん、YKさんの三人が久しぶりに登場した。

三人 : 先生、お帰りなさい。お疲れ様。お土産なんですか?

私 : イキナリだねえ。お土産よりも、君たちはこの間、少しは成長したのかな。外見は、、、化粧が濃くなったり、部活やめて筋肉が脂肪になったり、頭の中は見えないが、ま、言ってることから考えて、、、

NR君 : 先生、お腹がほんの少しだけへっこんだようで、何よりです。

私 : うむ、悪くない指摘だ。

YKさん :  先生、英語はペラペラなんですよねえ。

私 : ペラとペラペの中間くらいだな。

MSさん : 先生、どんな悪いことしてたんですか?

私 : いや、実はね、、、なわけネーだろ。もうちっとまともなこと、聞けんのかね。

MSさん : すいません。今の話は今度にしましょう、ナイショにしときますから。で、どうだったんですか、荒野は。なんかいいもの見つかりましたか?

私 : うーむ、一言で言うと、とんでもないほどたくさんのものを見つけたよ。自然、人、歴史、生活、文化、人生、経済、外国、日本、そして自分。

YKさん : そーんなにいっぱい!お年の割に頑張っちゃったんですね。で、見つけたものの中で、私たちにも関係あるものありますか?

私 : すべてのことが君たちにも関係してるよ。でも、ここでそれらを紹介してもあんまり面白くない。やっぱ、そういうものは、自分が行って、自分が探して、自分が見つけなくちゃ意味ないんだな、これが。別に勿体ぶってるわけじゃないんだけどね。

 NR君 : 見つけたもの勿体ぶっても、お土産勿体ぶらなけりゃいいですよ。

私 : あくまでも、そこに行くわけね。

三人 : はい、モチロンで〜す!

f:id:ilovewell0913:20191224214320j:plain私 : 三人とも、お土産は気に入ってくれたかな?

三人 : わーい、ありがとうございます。

YKさん : お金もないのに散財おかけして、申し訳ありませんでした。

私 : なんだか大人みたいなこと言うようになったね。少しは成長したようだ。

MSさん : 私の好きな色、何で分かるんですか。ありがとうございます。

私 : 君が単純だからだよ。

NR君 : 女の子の方が高そうだけど、ありがとうございます。

私 : そんなこと、ナイナイ。気のせいだよ。三人とも気に入ってくれたようで何よりです。さて、そろそろ私は、、、

三人 : どこか行くんですか?

私 : うん、ちょっと職探しにね。塾は無くなったし、貯金は全部使っちゃったし、このままじゃ、家入れてもらえないんだよ、トホホ、、、 

三人 : アラスカ行ってスケールデカくなったと思ったら、、、ま、それが現実ってやつですよね。じゃ、先生、頑張って!

 

 

 帰国して三ヶ月が経過した。日本を空けていた間に溜まりに溜まった雑用・野暮用の類が山になって攻めてきて、荷物整理こそ終えたものの、親しい友人と会うのもままならず、写真のデータチェックすら手付かずのままだった。でも、久しぶりにやって来た「何も予定のない一日」の昼過ぎ、机の上に置きっ放しになっていたカメラを手に取り▶️マークを押すと、最後に訪れたアリューシャンの景色が、まるで昨日撮ったかのような瑞々しさでモニターに再現された。サーモンが溢れかえっていたあの川だ。ああ、自分は確かにアラスカにいたんだ。宿のオーナーは今も夫婦協力して部屋掃除をしてるのかな。図書館のおばさんは今日も暇そうに本にハタキをかけているんだろうか。ゼロ戦に攻撃された難破船は、サビだらけの船体を湾の端の浅瀬に晒したままなのか。いやいや、彼の地はすべてのものがすでに雪と氷に閉ざされているだろう。私は気づいた。忙しさにかまけた東京の毎日でも、心の奥にはアラスカの灯が静かに灯り続けているのを。今この同じ瞬間に、若カリブーツンドラの上を飛ぶように走り回り、ランスは娘さんと納豆を食べているかもしれない。遥か彼方の場所との同時性。空間と時間の交錯。来週からは新たな仕事が始まる。場所や人は違っても、アラスカの荒野は姿を変えて日本に続いているのだろう。

 

 

 

(31) 出会い、繋がり、そして縁

 人生で大事なのは金運ではなく「人運」だよ。

 

 一つ一つはバラバラで、一見なんの繋がりもないみたいだけど、ある時、それらが一定の方向性を持って「繋がっている」と感じることがある。なんで繋がったのか自分でもよく分からない。でも、自分の意志以外の何らかの力が働いているような気もする。「出会わせ、惹きつけ合い、繋げて、進める不思議な力」、それが「縁」というものなのか、なんて考えている。英語には relationship(関係)、luck(運)、destiny(運命)なんて言葉があるけれど、「縁」はそれらに加えて、結び合わせ惹きつけ合う「磁力」と先に進める「方向」みたいなものまで含むんじゃないかな。日本語は奥が深いと思うよ。

f:id:ilovewell0913:20191224201700j:plain 「何でアラスカなのか、自分でもよく分からない」みたいなこと言ってたと思う。でも、もう一度よく考えてみると、何かに引っ張られている気がしないでもない。トライのサマーキャンプでいつもお世話になった入笠山の三沢さん、キャンプに参加した人なら覚えてるんじゃないかな。軽トラックに乗っけてくれたり鹿肉くれたりした元気のいいおじさん。あの人は若い時アラスカを放浪してて、その時の話を何回か聞かされていた。英語の勉強の場にカナダを選んだ後で地図を見たら、「なーんだ、アラスカはカナダの隣りなんだな」ってふと気づいた。当時、たまたま読んでいた本が、ユーコン川をカヌーで漕ぎ下る話だった。「三沢さん」と「カナダの隣り」と「カヌー」、バラバラだった三つがある時合体して、心の中にアラスカに向けてのでっかい矢印ができあがった。

f:id:ilovewell0913:20191224201638j:plain 一つの偶然が縁を生み、その縁がさらに他の縁を呼び寄せるなんてこともある。偶々出くわしたSSLCという英語学校。何となく飛び込んでみたら受付に勉強のライバル、いや目標となるユイがいて、その場でジュンコさんを紹介してくれた。ビクトリアに着いて次の日にジュンコさんに出会えたって超ラッキーなことなんだ。なぜって、ジュンコさんは「ビクトリアの留学生の母」のような存在なんだから。学校でも、最初の基礎英語の先生がコリンで、IELTSに移ってバーニーに教えてもらったってのは、彼ら二人はSSLCのNo. Iと2の先生だからね、本当に運がいいと思う。エドやキャリアナとの出会いはやはり偶然だけれども、そのお陰でキャリアナのお父さんのアレンと知り合った。アレンは私にとって「友」であるとともに「人生の大先輩」だ。そして、マナやアシュウィンとも知り合うことができたんだ。一つ一つはバラバラでも、何かのきっかけで繋がり方向性が示される。これってみんな「縁」のなせる技じゃないかって感じてるんだ。まだ、ある。チナリバーでたまたま出会ったランスがロン・イノウエ氏を紹介してくれ、ロンが赤祖父オーロラ大先生に会わせてくれた。この時ばかりは、普段は目に見えないはずの「縁」が目の前でパシッパシッと化学反応を起こしているんじゃないかと思ったくらいだ。

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 君らは青春真っ只中で、人生についてあまり深く考えたことないかもしれない。人生なんて誰にでもあるってことで言えば、確かにありふれたものだよ。でも、珍しいとか特別ってことは、本当は大して重要じゃない。どこにでも転がっているような極々ありふれた普通の「もの」や「こと」の中に、実は、人生の深みが見え隠れしている。君たちにも、そういうこと、いつかは分かると思うよ。

 

 

 

(30) ユーコン・アラスカの人々

日本ではありえないスケールの自然を求めて訪れたユーコン・アラスカだったけれど、一番心に残ったのは、そこで会った人々だったのかもしれない。彼の地では、今、この時も、彼は、彼女は、渡し船を操り、工事現場で旗を振り、図書館の本をリペアーし、パソコンと格闘し、部屋を掃除し、サーモンを捌き、子供をあやし、酒を飲み、歌っているのだろう。でかさ、寒さ、言葉、食べ物、肌の色、ガタイ、いろんな違いはあるけれど、人間、やっていることは大して変わらない。食べて、寝て、働き、愛し、悲しみ、笑い、怒り、喜び、みんな一緒。

 

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▲また一緒にビール飲みたいね、森の話を聞きながら/いつ働いてるのか分からない不思議な生活で羨ましい限りです。素敵な奥様によろしく/無事に故国へ帰れましたか/二度目に行った時は入院してて会えなかった。手作りのコリアン・ディナー食べたかったな

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▲いつも大きな声で元気一杯のHey, Mr. Postman!/車を失った旅人/兄ちゃんに負けずにしっかり勉強しろよ/大枚叩いてドーソン焼きの大皿買ったけど、あの判断に間違いはなかったよ

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▲おばはんパワーは世界共通だね/Mr. Rider、日本に来たら連絡しろよ/開拓時代のホテルに泊まりたかったです/私もダルトンHW頑張ったぜ! 

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▲いつまでも若くないんだし、ちゃんと働かないとダメだよ/授業では色々教えてもらって助かりました/遠くからでも目立つ出で立ち。スマホ向けたらポーズ決めるところがいいよねぇ/孫ってのは本当に可愛いものなんだね

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▲マットさん、色々教えてくれてありがとう。今度はブラウントラウトのポイント頼みます/君たちのガッツには頭が下がります/四輪バギーのドライブ、振り落とされまいとしがみ付いてたけど楽しかったよ。ありがとう/アラスカで君に会うとは思わなかったぜ

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▲疲れ果てた時に最高の部屋でした。ありがとう/愛犬まで紹介してもらって、嬉しかったよ/日本であなたの歌を聴いてケノを思い出しています/いい車を回してくれてありがとう。でも、タイヤはちょっとへぼかったぜ、はっきり言わせてもらうとね

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▲あなたの元気は人を巻き込みますね/美人に弱いので予定の二倍のお土産買ってしまったよ/奧さんとの会話はまるで掛け合い漫才でした/サラさん、お世話になりました。見知らぬ町でホントに助かりました。また、日本に遊びに来てね

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▲あなたたち三人のご親切は一生忘れません、マジで/おばちゃんのオムレツ最高。アラスカのビールと最高に合う!/色々調べてくれてありがとう。おかげさまでたくさんのクマに会えました/お礼のお守りは届きましたか

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ベーリング海に面した秘密の家なんて素晴らしすぎるぜ/オヤジさんのくれたサーモンの燻製は特別な味がした/困っている人がいたから手助けしただけっていうシンプルさに感動です/私のホテル見つけるのに小一時間付き合ってくれて、親切が身にしみました

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▲フェリーのデッキで野宿なんて、ばあちゃん、あんたは只者じゃないな/おかげさまで遅刻せずに船に戻れました。ありがとさん/わんこと毎日遊べて楽しかったよ。長旅の疲れも取れたしね。ありがとう/タマや、達者にしてるかな

 

本当に色々なところで色々な人と出会い、親切な言葉をかけられ、助けられ、支えてもらった。この恩は直接ご本人たちに返すことはおそらくできないだろうから、とりあえず"つけ"ってことにして、いずれどこかで他の誰かさんに返すつもりだ。最後の写真は帰りに寄ったシアトルの美術館での一枚。これ見てると、人間にとって何が大切かって、自然に分かるよね。

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 Dear, ユーコン・アラスカ、そしてビクトリア、シアトルのみんなへ

東洋から一人で乗り込んで来た旅人を、みんな、温かく迎えてくれました。自然のスケールの大きさにびっくりしたけれど、みんなの心の広さはそれ以上だし、みんなの親切のお陰で、最後まで無事旅をやり遂げることができました。只々感謝しかありません。本当にありがとうございました。末筆ながら、もし、日本においでになることがありましたら、お渡しした名刺の連絡先にご一報ください。精一杯のおもてなしをさせていただきます。

                初冬の多摩の居宅から8000キロの彼方へwith Love

                                       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(29) ユーコン・アラスカの自然ー空、雲、山、河、大地

アラスカはどこも空が広かった。同じ雲なのに同じ雲と思えない、それがアラスカだった。

 

f:id:ilovewell0913:20190918144714j:plain▲道とチョウノスケソウが直角に交わってるとこまで行けば、縦縞模様が見えるはずなんだけど、それがそうならないところが自然の不思議かも。

f:id:ilovewell0913:20190921070959j:plain▲ウナラスカ島はいつも霧に覆われている。たっぷりと水気を蓄えた霧が島全体にまとわりついて、島の植物たちはいつも"水撒き直後"の状態なんだろう。

f:id:ilovewell0913:20190918150534j:plain▲旅が始まって間もない頃は、まっすぐな道に出くわすたびに写真を撮ったものだ。計画した人も造った人も、走る人も、「二点間の最短距離は直線」を体感できる。 

f:id:ilovewell0913:20190918093444j:plain▲無数のひし形の亀裂が刻まれた氷河。中には深い亀裂(クレバス)もあり、単独行の植村直己はリュックに長い竹竿を真横になるように括り付けて氷河帯を踏破したらしい。

f:id:ilovewell0913:20190918083432j:plain▲氷河が下降して湖や海に達すると氷の先端が水面上に長く伸び、それを「氷舌」と言うらしい。今のままでも十分"舌"っぽいけどね。 

f:id:ilovewell0913:20191223014813j:plain▲自然の中の幾何学模様を読み解くのは興味が尽きない。地学、植物、気象、もっと勉強やっとくべだった。f:id:ilovewell0913:20190819021754j:plain▲雲たちが踊っている。あまりにも平らで、あまりにも広いから、雲が楽しくなって踊りだす。アラスカってのはそんなところなのかもしれない。

f:id:ilovewell0913:20190819021141j:plain▲とんでもないほどのこの広さ。お花畑の果ては白い雲と渾然一体になっていて、ここ歩いたらどういうことになるんだろうか。

f:id:ilovewell0913:20190819020816j:plain▲垂直に近い岩峰の下はグワッと氷河に削られていて、青年期の地球の外皮のありようであり、新大陸ならではのマウンテンビュー。

f:id:ilovewell0913:20190604144246j:plain▲海があり、波が静かに打ち寄せ、砂浜があり、朽木があり、遠くに雪を抱いた山が見える。ただ、それだけなんだけど、一人浜辺を彷徨えば、昔のことも昨日のことも、世界も個人も、みんな等しく、全てが愛おしく感じられる。

f:id:ilovewell0913:20191223013504j:plain▲アラスカの道はアラスカそのものだ。途方もなく広大な大地、そこに道を造った人間も偉いよね。

f:id:ilovewell0913:20191223013508j:plain ▲カナダのユーコン準州アメリカのアラスカ州を貫く大河ユーコン。長さ3700㎞は沖縄〜北海道の距離に等しくに、流域面積83万㎢は日本の国土面積の2倍強。ツンドラの小さな凹みが細い流れになり川となって、幾多のそれが氷河から流れ出した川と合わさり、最後はベーリング海に流れ出す。大地を潤し無数の生命を育む母なる川だ。

 

 

 

 

(28) ワイルドライフ〔その3〕

アラスカには"生え方"が日本とは違っている花や木が多い。日本の自然では到底考えられない規模の単一種の大群落がよくある。生物地理学で「新北区」と呼ばれる北アメリカ大陸のアラスカだからこその植生で、「旧北区」の日本などではまずお目にかかれないスケールと混じり気のない摩訶不思議な景観に旅人は圧倒される。

 

◾️ファイヤーウィード 日本名はヤナギラン、カナダ・ユーコン準州の州花である。六月末から八月までの長きにわたり、ユーコン・アラスカ中のどこでも目にした。見渡す限りの山の斜面がファイアーウィードというのもあった。九月になると、そこいら中に綿毛が舞って、それがファイアーウィードの種子だった。「燃えるような赤」から来た名前かと思っていたが、アラスカ名物の山火事の跡に最初に生えるのを見て、なあるほどと思ったものだ。

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◾️チョウノスケソウ 北極海間近のツンドラを覆い尽くす大群落だった。よく見ると、単なる均一の白い絨毯ではなく縞模様になっている。土壌や微地形の違いからくるものなのだろうか。積み重なり、圧し潰され、曲がり、削られ、結果、地表には土と岩の不思議な幾何学模様ができあがり、それをなぞってチョウノスケソウの縞模様ができあがる。キャンバスは地球の表皮、絵の具はチョウノスケソウの白、そして画家は地球物理学的力。 北極海に面したカナダ・ノースウェスト準州の州花でもある。

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 ◾️ウナラスカ島の花たち 北太平洋に連なるアリューシャン列島の中のウナラスカ島は、佐渡島くらいの大きさで人口は4,000人。道伝いに行けるのは島の一部に限られ、手つかずの自然が残されて、いや、そんなもんじゃなくて、自然だらけのところに、少しだけ人間が住まわせてもらっている、そういう所だった。島全体がツンドラに覆われ、大きな樹木がないのが特徴。クマがいないから、実にのびのびトレッキングを楽しむことができる。オリンピック競技にもなったカヤックの原型は、当地域先住のアリュート族が考え出したものと言われている。

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◾️亜高山性の花 北アルプスの3000メートル地帯に生える植物が、北海道では2000メートルで見られる。その伝でいくと、アラスカはどうなってしまうのか気がかりだったが、3000メートルあたりまでは大差なく、それ以上は夏でも分厚い氷河で覆われていて、可愛らしい高山植物が顔を出すという環境ではないようだ。 

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(27) ワイルドライフ〔その2〕

山、森、川、湖、空、、、アラスカはあらゆるところに野生の命がひしめいていて、自然を求める旅人をいっときも休ませてくれない。

 

◾️白頭鷲 憧れの猛禽類だ。高い木の梢に止まっていると様になるが、交通標識や電柱だと"孤高"のイメージと合わない。意外と呑気で簡単に近寄れ、反撃はない(ハズだ)。絶滅が危惧されたが保護策のおかげで今では数が増え、色々なところで目にする。これは橋の欄干に止まっているのを5メートルまで近づいて撮ったもの。さらに近づくと、面倒臭そうに羽をバッサバサさせて飛んで行った。f:id:ilovewell0913:20191213205512j:plain

◾️カラス 日本のカラスより小さいのや同じくらいの、そして二回りくらい大きいのもいて、それがレイヴン、ワタリガラスだ。特別な知恵を持ち人間を善に導くとされているから、見かけるたびに「私もぜひ善に導いてください」と念じたんだけどね、、、いや、今、思い出したぞ。カナダを出発するとき、エドの家の前の電線に妙にレイヴンが集まっていて、今までそんなことなかったから日本人的に「縁起悪いなあ」と感じたけれど、あれは、旅の安全を願ってくれてたんだな、きっと。 

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◾️クジラ "でかさ"ゆえにすべての哺乳類の中で特別な存在だ。独自の言語を持つだけじゃなくて、人間とはかけ離れたある種の世界観を持っているんじゃないかと思いたくなる。太陽系において、地球を境に内惑星・外惑星と区別するように、人間との関係性においても、単に大きさだけじゃなくて、他の哺乳類とは根本的に異なるのではないか。下の写真は二頭が連れ立って泳いでいるところ。スピード、アップダウンのリズムを合わせて楽しげに泳いでいた。自然界にある全ての形・色・行動・分布・生態などには必然性がある。このシンクロナイズドスウィミングにも、餌を効率的に取るとかの生態的な意味があるハズだけど、それだけでは表しきれない何かを、クジラには想像したくなってしまう。

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◾️ラッコ 可愛くて愛嬌者。警戒心が薄い分、200年前のアラスカでは毛皮に目をつけたヨーロッパ人に殺されまくった悲惨な歴史を持つ。ラッコに限らず、当時は人工的な毛皮がなかったから、人間には毛皮が欠かせなかった。でも、現代はそれなりの代替品が考え出されている。今はなきフランスの有名女優でなくとも、地球環境的見地からすると、毛皮をまとってしゃなりしゃなり歩くのは度し難いアナクロニズムと言うべきだろう。浜辺を歩くと、ラッコが食べた後のハマグリの貝殻が目につく。細々ながら昔からの暮らしを続けているようだ。 

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◾️グレイリング アラスカなら多分どの川にでもいて簡単に釣れると思う。小さいので30センチ、大きいのだと50センチ近い。日本の渓流だと、30センチの魚は"尺もの"という特別な呼称が与えられるけれど、こちらでの30センチは釣るべき魚の最小の大きさだろう。日本では考えられないようなサイズがバンバン釣れるのだからさぞかし楽しいと思いきや、そうならないところが、ある面、魚釣りの奥の深さなのかも知れない。

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◾️サーモン 人間の食生活においても、森と川を中心とする生態系の中でも、サーモンがこれほど大きな役割を果たしているとは、こちらに来るまで知らなかった。海で大きくなったサーモンたちは、秋になると自分の生まれた川に律儀に帰ってくる。母川回帰と言われる生態だ。川に溢れるサーモンを狙って、私が見ただけでもクマ・キツネ・ワシ・カラスなどが、年に一度の"書き入れ時"とばかりに川に集まる。人間は梁を作って大量捕獲し、地元での消費に止まらず燻製や缶詰にして、それはビジネスとして地元の経済の柱になっている。河原を歩くとそこいら中に息絶えたのやグワっと腹だけ食い千切られたサーモンが累々としている。昆虫や節足動物も出動してきて、最後は食物連鎖の土台を支える分解者を経由して豊かな滋養を含む土になる。その土は植物を支え昆虫などを育み、、、つまり、川という「食堂」にあらゆる生物が集まり、サーモンという「ご馳走」の恩恵を受けている。だから、ファーストネーションが描き謳うのは、クマでありオオカミやレイヴンであり、そしてサーモンなのだ。

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