アラスカには"生え方"が日本とは違っている花や木が多い。日本の自然では到底考えられない規模の単一種の大群落がよくある。生物地理学で「新北区」と呼ばれる北アメリカ大陸のアラスカだからこその植生で、「旧北区」の日本などではまずお目にかかれないスケールと混じり気のない摩訶不思議な景観に旅人は圧倒される。
◾️ファイヤーウィード 日本名はヤナギラン、カナダ・ユーコン準州の州花である。六月末から八月までの長きにわたり、ユーコン・アラスカ中のどこでも目にした。見渡す限りの山の斜面がファイアーウィードというのもあった。九月になると、そこいら中に綿毛が舞って、それがファイアーウィードの種子だった。「燃えるような赤」から来た名前かと思っていたが、アラスカ名物の山火事の跡に最初に生えるのを見て、なあるほどと思ったものだ。
◾️チョウノスケソウ 北極海間近のツンドラを覆い尽くす大群落だった。よく見ると、単なる均一の白い絨毯ではなく縞模様になっている。土壌や微地形の違いからくるものなのだろうか。積み重なり、圧し潰され、曲がり、削られ、結果、地表には土と岩の不思議な幾何学模様ができあがり、それをなぞってチョウノスケソウの縞模様ができあがる。キャンバスは地球の表皮、絵の具はチョウノスケソウの白、そして画家は地球物理学的力。 北極海に面したカナダ・ノースウェスト準州の州花でもある。
◾️ウナラスカ島の花たち 北太平洋に連なるアリューシャン列島の中のウナラスカ島は、佐渡島くらいの大きさで人口は4,000人。道伝いに行けるのは島の一部に限られ、手つかずの自然が残されて、いや、そんなもんじゃなくて、自然だらけのところに、少しだけ人間が住まわせてもらっている、そういう所だった。島全体がツンドラに覆われ、大きな樹木がないのが特徴。クマがいないから、実にのびのびトレッキングを楽しむことができる。オリンピック競技にもなったカヤックの原型は、当地域先住のアリュート族が考え出したものと言われている。
◾️亜高山性の花 北アルプスの3000メートル地帯に生える植物が、北海道では2000メートルで見られる。その伝でいくと、アラスカはどうなってしまうのか気がかりだったが、3000メートルあたりまでは大差なく、それ以上は夏でも分厚い氷河で覆われていて、可愛らしい高山植物が顔を出すという環境ではないようだ。