おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(8) 消えた白いポール【前半】

 日本でのことだが、山ではたまに「あれっ?」とか「変だぞ!」と思うことが起きる。人っ子一人いないはずの山中ででテント泊をした時、暗くなってから、「ぎゃー」という叫び声を聞いたことがある。そのあたりで猿を見かけたことはないし、どう考えても人の声としか思えなかった。小屋開き前の山小屋に泊まった時は、明け方近くに突然「ガーン」という金属音が真っ暗な小屋中に響き渡った。宿泊客は私一人。小屋主が何か叫ぶかと思ったが、何も起こらない。朝になり例の怪音について小屋の主人に尋ねてみたが、そんなことあったかなあみたいな拍子抜けの反応。一体、あのガーンはなんだったのか。落石が小屋を支える鉄の支柱に当たったという可能性を考えて、出発前に小屋の周りを点検してみた。岩も壁の穴も何もなかった。小屋主が知らないフリをする理由が見当たらないし、うーむ、変だ。最もたまげたのは南アルプスの三峰岳の山頂での「霧の中から突如現れた女」だ。場所は、普通の登山者はまず足を運ばないマニアックな山だ。しかも女は単独行。あの山に女の人が一人で登ることは常識的にありえない。冷たい雨の中、ヘトヘトになってで山頂にたどり着いた私は、頂上の石積みにザックを下ろして、とりあえず近くでオシッコをした。霧がいよいよ濃くなり、体を動かしていないと体温が奪われる感じだ。早く下山しようとザックに戻ったその時、白い雨具に長い黒髪の純日本風美人が突然、霧の中からすっと現れたのだ。やや強めの風は吹いていたと思うが、それまで人の気配は全くなかった。相手が美人なだけに、「オシッコしてるとこ見られなくてよかった」と咄嗟に思ったのを今もはっきりと覚えている。オシッコの引け目があったのでほとんど言葉を交わさなかった。あれは一体なんだったのか。新珠三千代似の(今の人は絶対知らない。新垣結衣じゃあないから)あの美人は何者だったのか。

 

 ユーコンのトムストーンキャンプ場でのことだ。夜、おそらく9時を少し過ぎた頃、私はキャンプ場の正面の山の頂に白く光るポールを見た。デンプスターハイウェイに面している山だから電波塔か方位標か。就寝前の数分間、私はぼーっとした頭で白く輝く山頂のポールを眺めた。自然の中に人工物は少なければ少ないほどいいと普段から考える人間なので、寝袋の中で私は少しだけ残念に思った。

 翌日、近くの小ピークに登り、例の山を眺めたが何も見えない。あれ、変だぞ。昨夜は確かに白いポールが光っていたのに。山は他にいくつもあるが、特徴的な形の山だから場所は間違えていない。位置関係で何かが視界を遮っているのか。いや、最近とみに落ちてきた視力のせいかなあ。昨夜は絶対に見た。でも今は見えない。じゃあ消えたのか、あの白いポールは。いやいや、安易に"超常現象"に走っちゃいけない。冷静に、科学的に対処せねば。もしかすると、、、

 

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山頂左側にはっきりと見える。周りに人工物がないから目立っている。

 

【後半】に続く