おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(17) 空飛ぶインディアンガール

 ベーリング海峡を見るのを目的に訪れたノームで、実はトンデモナイ女の子に会った。

 

 冷たい雨の降る飛行場から乗合タクシーを飛ばして宿泊先へ。玄関ドアを開けて大きな声でハローと叫んだら、20歳前後のちょっと色黒の女の子が出て来た。

 「今、オーナーさんは外出してて、夕方まで帰りません。お客さんの部屋は多分奥のドアの部屋ですから、勝手に入ってください」

 「ありがとう。ここの娘さんじゃないんだね。どこから来たの?」

 「カナダのアルバータから来ました、飛行機で」

ここはアラスカの他の町と陸路では繋がってないから、確かに飛行機で来るしかない。

 「そうなんだ。旅行中なの?」

 「旅行中っていうか、、、天候が回復するの待ってるんです」

ナニイッテンダカ、、、

 「今日だって飛行機飛んでるよ、雨降ってるけど」

 「私の飛行機は小さいから、こういう天候の時は無理なんです」

変なこと言う子だなあ、、、

 「天気が回復したらどこ行っちゃうわけ?」

 「ロシアに寄って、インドに帰ります」

おちょくってんじゃないの?それとも、この子、大丈夫なんだろうか。ここからロシアへ行く定期便なんてあるわけないし、自家用機でもない限り無理な話だよ。この子が大金持ちのお嬢様で召使いが自家用飛行機を操縦して、、、いやいや、もしそうなら、こんな安宿にいるわけない。じゃあ、この子が自分で小型飛行機操縦して、、、アンビリーバーブー!!!

 「あの、君が自分で飛行機操縦してここまで来たんじゃないよね、、、」

 「自分で操縦して来ました」

 「んじゃ、君って、パイロットのわけ?」

 「はい」

 「で、次はロシアって、ベーリング海峡渡らなくちゃいけないんだよ。俺も行きたいよ。一緒に連れてってよ」

 「すいません。飛行機二人乗りで私の荷物がたくさんだから、乗せられないんです」

 

 世の中、色々な人がいるもんだ。今回の旅でも色々な人に会った。でも、インドのこの子、名前はアールオゥヒ・パンディットさん、アールって呼べばいいらしいんだけど、まだあどけなさが残ってるからアールちゃんと呼んでもいいくらいの娘っ子が、一人で飛行機操縦して、この後、ベーリング海峡を飛び越えてインドに帰るって、いやはや、びっくりしました。

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ーなんでパイロットになったの?

 速いのが気持ちいいんです。それに、どこにでも飛んでいけるから楽しいし。 
 ー怖くないの?

 私の飛行機は車よりちょっと速いくらいだから、怖いと感じたことはあんまりありません。空高く飛んでると、とっても気持ちいいんですよ。

パイロットになることに、お家の人は反対しなかったの?

 父は強く反対しましたけど、何回も何回も話し合って許して(諦めて)もらいました。家にはしょっ中、連絡してます。さっきもお父さんと話したし。

ー自家用飛行機持ってるなんて、君の家はチョーお金持ちなんだね。

 飛行機は自家用じゃなくて、私が所属している会社のものです。でも、乗るのは私だけだから、実質的には自家用みたいなものですけど。父は清掃関係の会社を経営してますがリッチじゃないです。母は専業主婦。姉は法律の勉強をしています。

ートイレとか食事はどうしてるの?

 飛行前の飲食は我慢します。食事はスナック菓子みたいなもので済ませます。

ーストイックだねえ。具体的な目標みたいのはあるの?

 女性の世界一周飛行の最短記録を更新することです。今回の飛行も世界一周の途中なんです。私は二つの世界記録(女性単独大西洋飛行、同じくグリーランド飛行)を持ってるんですよ。

ーそれじゃ、インドじゃ有名人なんだね。

 有名じゃないです。でも、私のこと知ってる人はたくさんいるかも。

ー日本には来ないの?

 そのうち行きたいです。でも、日本は飛行場の許可が簡単に取れないんです。

ーそうかあ。でも、もし来ることあったら、ぜひ小型飛行機で来てね。私も日本一周飛行のお伴したいから。体重減らして楽しみに待ってるよ。

 はい。分かりました。体重は40キロくらいでお願いします。