おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(26) ワイルドライフ〔その1〕

アラスカをめざした理由の一つは、野生動物との出会いだ。日本では考えられないような自然の豊かさとスケール、そして奥深さを感じないわけにいかない。

 

◾️ムース だんだんムースが近づいてきた。草食動物とはいえ馬よりも遥かにでかく、近づけばなおのこと迫力が増す。こちらの様子を窺いながら10メートルくらいのところで一旦止まって草を食んでいたが、ふっと顔を上げ、私の存在は無視と意を決したように、ずんずんこちらに向かってくる。すでに、慌てて車に走っても間に合わないところまで接近してしまった。運を天に預けて、私はそのまま撮影を続けることにした。 

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 ◾️カリブー 広大無辺なツンドラの一点と、今、私は交感している。走るというより飛ぶと言った方がぴったりする様でツンドラを駆け回っていた若きカリブーは、私の姿を認めて動きを止め、好奇と警戒が入り混じった眼差しで私と対峙した。動きも形も人間には作り出せない完璧な美しさだが、その裏には、明日の命すら保証されない絶対的な孤独があることに気づいた。

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◾️モスコックス 気配を消して斜面を登るにつれて、雪をいただいた山をバックに、モスコックスの群が全容を現した。十頭ほどの群れには今春生まれたと思しき小さい個体も含まれている。こちらが数メートル移動するのに合わせて、群のボスが頭を下げ角をこちらに向けて立ち位置を変えている。向こうはいつでも斜面を駆け下りてこれる体制だ。常に退路の安全を確かめながら、私はさらに距離をゆっくり詰めていった。 

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 ◾️ブラックベア カメラのファインダーの中のクマの目と私の目が合った。私はクマの目を食い入るように見つめ、なんらかのサインを読み取ろうとした。しかし、クマは無表情のままで、その無表情こそが、我々人間と野生との距離であることを知った。 

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 ◾️グリズリー 車まで30メートルの隔たりがあるが、そこは比較的平坦な荒地で、凸凹に注意すれば、なんとか走って戻れそうだ。しかも、ある程度の水深と流速のある幅10メートルほどの川がグリズリーと私を隔てている。少しずつ距離を詰め、私は対岸のクマの斜め正面に陣取り、三脚とカメラをセットした。二日間、野山を探し回った挙句のラストチャンスだ。 

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◾️ビーバー 「いかにも出そうな場所」で待っていると、ヤツはきっと現れる。気持ちよさそうに泳いで近くまで来るとバシャンと水音を立てて潜水しては浮上、それを飽かずに何回も繰り返す。「私って泳ぎ上手いでしょ、、」とでも言ってるんだろうか。 

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 ◾️オオカミ クマ以上に会いたかったのがオオカミだ。バンクーバー島北部、ユーコン、アラスカなどで勇者の姿を追い求めたが、結局、足跡を何回か見ただけで終わってしまった。足跡がある以上いることは間違いないし、それなりに追跡もしたのだが。考えて見ると、「気配はあれど姿なし」こそがオオカミに相応しいのかもしれない。

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 ◾️リンクス こちらにはピューマやクーガーと呼ばれるヒョウくらいの大きさの猛獣がいるらしい。それらに比べれば中型犬程度のリンクスは可愛いものである。耳の先のとんがった毛がチャーミングだし。そんなだから、見つけたら、即追いかけて撮影したものである。

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