おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(9) パルナシウスを求めて【後半】

 7月3日、晴れ時々曇り。気温が低めなのはいいとしても、風が強いのが気にかかる。それに一般の観光客?みたいな人たちがちょこちょこやって来る。でも、そんなのは関係ない。めざすものに出会えればいい、それだけである。前回より飛んでいるチョウの数が幾分増え、高山性の花も咲き始めている。季節が少しだけ進んだのが感じられる。しかし、肝心のコマクサは花はおろか、葉も見かけない。7月に入ってまだ葉が地表に出ていないということは考えられない。つまり、私が見て周った範囲にはコマクサは自生していないと考えなければいけない。風は相変わらず強く、雲が増えて陽が全く差さなくなってしまった。本日はどうもこれで終わりのようだ。カラカラと気合いが空回りする。

 元々夜はテント泊のつもりでいたが、地元のオヤジが「車で寝たほうがいいんじゃないか。ま、クマは大丈夫とは思うが、、、」なんて言うのを聞くと、やはり気になるものである。ここは無難に車中泊することに決めた。夜中、雨が車の屋根を叩く音で目覚めた。テント泊してたら面倒なことになっていた。6時になってもまだ雨は降り続いていたが、雲の様子から「1日降り続く雨ではなさそう」と判断し、歩く範囲を半径3キロに広げて調べた。成虫の確認はすでに極めて難しい状況だが、せめてコマクサの自生だけでも見届けたいと意地で歩き回った。午後になってさらに強くなった風が「ゴールドラッシュじゃあるまいし、そんなうまい話はないってことだよ、、、」と嘲笑うかのように冷たい雨を私の顔に打ち付けた。

 

 2泊3日の孤軍奮闘は、結局何の成果ももたらさなかった。後で調べて分かったことなのだが、パルナシウス・エベレスマンニはアラスカからユーコン、さらに南下してオレゴンまで広く分布しているようなのだ。いずれの地でも個体数は多くないみたいだが、私が50年前に得た情報「北海道の大雪山とアラスカの一部に棲む稀少なチョウ」というのは当時の知見であって、その後、研究者が様々な場所でこのチョウを発見・採集して本当はかなり広範囲に分布していることが確認されていた。私は「浦島太郎」的な罠にはまっていたということのようである。でも、いい。50年前の昆虫少年の心で大地と戯れることができたのだから。

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左3枚 : いかにもパルナシウスが生息していそうな環境。 右端 : たまたまのご縁でアラスカ大学昆虫学教室の教授が標本室を案内してくれ、アラスカ、ユーコンオレゴンなどの産地のパルナシウスの標本を確認できた。今思うとラベルのデータだけでもメモっとけばよかった。