おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(15) オーロラ大先生

 フェアバンクスがどんなところか、ガイドブック「地球の歩き方」を見たら、「アラスカ大学フェアバンクス校にはオーロラ研究の世界的権威である赤祖父俊一氏が今も研究を続けられていて、研究棟は氏の名前を冠してアカソフビルディングと名付けられている」。へぇー、そーなんだ。偉い学者なんだろうなあ、、、と、これは一週間前のこと。

 納豆愛好者ランスからのメールで、「友人のロン・イノウエ氏にも会ってみないか。彼は日系人に顔が広いから」と勧められた。"中に入り込んでいく"というのが旅の妙味でもあり、「ぜひ、お会いしたい。大歓迎です」と返した。しばらくして、今度はイノウエ氏から連絡があり、アラスカ大学で昆虫学を教えているデレク・サイクス教授を紹介するから、ぜひお会いしてチョウチョ談義に花を咲かせてみたら、、、ときた。そして、極めつけは「赤祖父先生に、あなたがフランク安田の墓参りのためにビーバーに行ったことを話したら、『ぜひ会って話を聞きたい』とおっしゃってるから、なんとか時間を作ってください」となって、一瞬まごついた。元気だけが取り柄のノーテンキオヤジが、世界レベルの学者に会って何を話せばいいんだ。でも、会えるものなら会ってみたいな。学者に限らず"世界レベル"の人間に直接会って話ができるなんてチャンスは滅多にあるもんじゃない。まごついて言葉が出なくなっても、ま、気にしないどこう。「先生はお忙しくてなかなか電話で捕まえにくい。何回か電話してみて」と電話番号を書いたメモを渡された。

 1回目の電話。ルー、ルー、、、年配の人の声で「ハロー」。うわ、いきなし本人出ちゃったみたい。「ハロー。ディス イズ キヨシイノウエ スピーキン、、、」。いや本人なら日本語でいいんだ。「先生、お忙しいとこ恐れ入りますが、、、」、「うーん、ちょっと手が離せなくて、また電話ください」。「それは大変失礼いたし、、、」、カチャ。あぁ、緊張した。でも、拍子抜け。

 2回目の電話。ルー、、、「赤祖父先生ですか。ロンからご紹介いただきました井上で、、、」、「あ、午前中なら大丈夫。そう、よかったらおいでください」ってなって、本当に会うことになったんだ。

 会う前にウィキペディアをみたら、著作はもちろんのこと、研究の概要、受賞歴、現在の立場など書いてあり、マジ偉い学者なんだというのが門外漢の私にも分かる。時間を無駄にさせちゃ申し訳ないから、話すことを簡単にまとめて、普段よりやや綺麗目な格好をして、レッツ・ゴー・アカソフビルディング!

 「先生、貴重なお時間をいただき恐縮です。ビーバー村に行って参りましたので」と切り出し、明治の偉人・フランク安田が眠るビーバー村の様子をお話しした。フランク安田の墓が草ボウボウであること、彼が七、八十年前まで営んでいた交易所は半分崩れかけていること、奥さんのネビロのことを覚えている老人と話したこと、ビーバー村には宿泊施設がないので、普通の旅行者は簡単には訪問できないことなどを説明した。赤祖父先生は、村の現状についてもだいたい把握されていて、ご自身、フランク安田の偉業が歴史の奥に埋もれてしまわないように活動もされていた。話題がだんだん広がり、フランク安田の偉業を描いた「アラスカ物語」を英訳してアラスカの小・中学校に配ったこと、作者の新田次郎氏との交流、フランク安田の子供や孫達の近況、そしてご自身が若い時にチョウチョに興味を持って収集されていたことなどまで、楽しく拝聴させてもらった。

 一時間ほどで私は研究室を辞した。大学者なのに全く偉ぶったところがない。話の内容は重く濃いのに、淡々と事実に沿って私にも分かりやすくお話しされる。これ以上求めるものがない境地まで上り詰めたのではないかと、私のような外野の人間からは見えるのだが、フランク安田に想いを馳せ、何よりも、一介の旅人に過ぎない私をわざわざ研究室に呼び寄せて話を聞くこの元気と好奇心は、なかなか持てるものではない。人生の大半をオーロラ研究で過ごし、常に宇宙と太陽と、、、ま、これ以上は単語が続かないのだが、人間のスケールをはるかに超えた世界と対しているからこその、若さ、探究心、活動欲なのだろう。赤祖父オーロラ大先生、私まで先生のエネルギーのおこぼれをいただいたような心境です。本当にありがとうございました。

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f:id:ilovewell0913:20190806090945j:plain上左 : ガイドブックの説明。ふーん、偉い先生がいるんだなあ、、、最初はそんな感じだった。上右 : おー、ガイドブックにある通り「アカソフビルディング」って書いてある。下 : チョー多忙のはずなのに、丁寧に優しく対していただき感謝しかありません。調子乗って変なこと言わなかったかなあ、、、