おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(7) 何を食べていたか【後半】

 料理とは頭と胃袋の協業による創作活動だ

 偉そうなことを書いてしまったが、与えられた素材をいかに活かすかという工夫こそが、料理の楽しみであることを理解した。1ランク上の、と自分では思っているのだけど、工夫としては、エヘン、マヨネーズやソースは買ったままの状態では使わず、必ず日本風にあるいは自分好みにアレンジした。甘味は砂糖の代わりにイチゴと見間違って買ったサクランボのジャムを使うとまろやかさが出るのが分かった、エヘン、エヘン。野菜を意識的にたくさん摂る為に、ドレッシングも簡単な工夫をした。市販品は私には酸味が強過ぎるので、マヨネーズにネギのみじん切りを入れ、オリーブオイルやミルクを適度に加え、さらに手持ちの果物があればそれも細かく刻んでテキトーに混ぜた。これだけで、見た目だけでなく味も数段良くなる。

 しかし、いくら工夫しても、どうしても捨てなくてはいけない場合があった。クーラーボックスの氷は持ってせいぜい1日。予定が変わって、2日以上冷蔵庫が使えない状態が続くと、クーラーボックスの中で出番を待つ食材が宙に浮く。例えばミルクをどうするか。傷んでいないか、外見と匂いをチェック。捨てるのは勿体無い。でもちょっと変かなあ、、、この辺の判断が"にわか料理人"の私には難しい。で、辛いところなのだが「疑わしきは捨てる」、これを原則にした。捨てる時は心の中で「ゴメンナサイ」と唱えるようにして。ここもやはり旅を続けている限り「安全第一」の原則で行くしかない。

 自作自選ベスト4はシーフードカレー(でっかいエビが美味かった〜)、ミルフィーユ鍋(肉を薄切りにするのがタイヘン)、すき焼き(定番だね)、カルビ焼肉(タレが絶妙)。

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特別賞は中央上の焼き鳥。ワサビがほんのり効いて美味かった。

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 食べることと関連して、旅を続ける上で特に注意しなければいけないのは、毎日の健康管理だ。一昔前までは薬と無縁の生活だったのに、いつの間にかすっかり薬の世話になるようになって、ま、これはジジイになったのだからしょうがない。まず、日本を出る前に、やるべき治療、フィジカル面の弱点のチェック、そして、医者の処方による薬、市販の薬などを揃えた。弱点は消化器系。具体的には、歯・胃・腸・肛門、つまり食べ物の入り口から出口までの全部だ。まず1年以上かけて歯の根本治療を行なった。胃腸は消化剤、整腸剤、下痢止めなどの処方薬を10種類と漢方薬2種類、尿路結石で数種類、腰痛の薬と腰ベルト、無呼吸症候群対策のマウスピース他、水虫薬、お尻の薬(詳細は伏せる)、養毛剤、目薬、日焼け止め(使わず)、膝の薬などなど。この他に一般的な外傷の薬、防蚊薬、虫刺され薬。防蚊効果があると宣伝している繊維のシャツとタイツ、手袋。これで小ぶりの段ボール箱1個になったが、旅を終えた時点で五分の一に減った。「備えあれば憂いなし」と喜ぶべきか、薬無しではやっていけない軟弱さを嘆くべきなのか。ただ、お尻の薬は一度も使わずにすみ、これは唯々嬉しい誤算だった。

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(7) 何を食べていたか【前半】

 

 片雲の風に誘われ旅を住処とするのはいいんだけれど、霞を食べても何の足しにもならない。寝ること、休むこと、そしてしっかり食べることは旅の要諦だ。栄養補給は当然だけど、美味いものを食べていないと元気が出てこないし、食べ物で旅に変化をつけることもできる。最初のうちはレストランでステーキを食ったり、日本料理店に行ったりもしたが、外食は「高くて、不味くて、胃に負担がかかる」のが体験的に分かったのでレストランにはすっかり足が遠のいてしまい、カナダで勉強していた時と同じように自炊が中心になった。でも、カナダでは"定住"してたから、自炊は思ったほど大変ではなかった。買い物は面倒だけれど、冷蔵庫が使えたから買い置きができたし、不慣れな料理がだんだん面白く感じられるようになったのは自分でも意外だった。しかし、旅をしながらだと事情が異なる。同じ宿泊施設に連続泊しないと実質的に冷蔵庫が使えない。不慣れな町では欲しい食材が買えるかどうか分からないし、肉でも野菜でも売っている分量が多過ぎる。宿泊施設にキッチンがない場合は部屋の中でキャンプ用のコンロを使うしかない。そもそも、車中泊やテント泊の時は野外で料理するしかない。水が自由に使えない場合もある。それでもなお自炊を続けたのは、その方が「安くて、美味くて、体にいい」からだ。

 旅中の自炊には制約が多い。買うのはなるべく少量で持ちのいいもの、常温で保存できるものを選ぶ。次の予定を考えて、移動時には生ものは極力持たないようにする。野菜や果物は宿で作った氷を入れたクーラーボックスに保管する(これ、メンドウ)。

 日本の食材は、意外と手に入る。米・醤油・味噌は勿論のこと、ポン酢・みりん・海苔などは普通に目にする。豆腐は大きなスーパーであれば大抵売っているので助かるが、硬いのが多く、絹ごしみたいのはこちらの人は上手くキャッチできないのだろう。アメリカ人がフォークで豆腐に悪戦苦闘している図を想像するととても可笑しい。野菜も、日本人がよく使うものは大体ある。キャベツはしんなりべったりしててシャキシャキ感が全然ないが、レタスを使えばいいだけの話だ。きのこ類は豊富で、えのき茸があったのには驚いた。日本食材で手に入りにくいものは鰹節くらいか。

 コメをどうするかは日本人にとって大問題だ。パン・パスタ・麺類をコメ代わりにすることも多かったが、意外だったのは、ジャガイモが活躍してくれたことだ。マッシュポテトは十分にコメの代役になり得た。ジャガイモは安い・持ちがいい・保存が簡単・料理も簡単で、さすがドイツ人、無駄がない。コメを炊くのは一ヶ所にい続ける時だ。炊き方にコツがあって、米とぎは入念に、炊く前に数時間は水につけておく、水も一割以上多め、炊く直前に日本酒と酢を少量入れるなどで、これはネットの受け売り。炊きたては申し分なく美味い。ただ、一旦冷えるとボソボソになる。パックライスも売っているが、チンする前に水を少量加えると日本人好みのふっくらご飯になるようだ。

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自分でも驚くくらいいろいろ作った。人間、切羽詰まると頑張るもんだなあ。でも、日本戻ったら何食べたいかなあと考えたら、湯豆腐、ざるそば、鰻重などが思い浮かびつつ、何と言ってもカミさんの作ってくれる料理、これが一番だと、異国の地でしみじみと思うのであった。

【後半】に続く 

 

 

 

 






 

 

 

 

 

 

(6) デンプスターとダルトン【後半】

 ダルトンハイウェイは内陸アラスカの中心都市フェアバンクスが起点だ。スケールの大きい丘陵を縦横に走る快適な舗装道路から始まるが、数時間で未舗装が現れ、北上するに連れて未舗装の割合が増し、北極圏突入後はほぼ未舗装になる。部分的にでも舗装されているのは助かるが、時折、ボコッととんでもない大穴があり、常に前方を注意しなくてはいけないし、注意しても防ぎきれないことしばしばで、車に与えるダメージは未舗装より大きい。この道の文字通りの"山場"はブルックス山脈を越えるアチガン峠だ。ブルックス山脈の最高標高は3000メートルに満たないけれど、本州の半分くらいのスケールのとてつもない山岳地帯が北極圏に広がり、ラストフロンティアという言葉がぴったり来る。また、ダルトンのもう一つの特徴は長大なパイプラインに沿って走っていることで、地を這う銀色の巨大な竜のような姿が運転中もずっと見え隠れする。ダルトンハイウェイはパイプラインの保守点検及び北極海に面したプルドーベイの石油基地への物資補給というのが本来の役割なのだ。 

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(左上Aから右へ、最後はL) Aダルトンはのっけから山火事で始まった Bどんな地形をも物ともせずに貫通するパイプラインは「アメリカの意思」そのものだ Cブルックス山脈が近づいてきた Dホテルとは名ばかりで軍隊の宿舎のようだった Eクルマの私は彼らには頭が上がらない F不思議な地学的模様はこちらでも至る所で見られる Gアラスカ版"天下の剣"のアチガン峠を越しホッと一息 H少しでも起伏があれば川は蛇行し三日月湖を造る。そこら中、三日月湖だらけ Iツンドラの平原をまっすぐに伸びる道の先に北極海が見えてきた Jオオカミ。足跡しか見られないところが、またいかにもオオカミらしい Kついにジャコウウシの群れと遭遇。嬉しかったなあ Lまたまたやらかしたパンク。でも通りかかったトラック野郎があっという間にタイヤ交換をしてくれた

 

地図で見ると同じようなイメージを抱いてしまうけれど、デンプスターハイウェイはイヌビクやトクトヤクトクに住む人々のための生活道路であり、ダルトンハイウェイは石油採掘のための産業道路だった。ツンドラにも微妙な違いがあり、何よりも、カナダとアメリカ、二つの国の性格の違いがよく表れた"ハイウェイ"であった。 

 

(6) デンプスターとダルトン【前半】

 北極海に通ずる道はユーコンのデンプスターハイウェイ、アラスカのダルトンハイウェイの二つしかない。両者ともとんでもない悪路でしかも長距離。ハイウェイとは名ばかりで、デンプスターは全線未舗装、ダルトンは八割が未舗装。「荒野の一本道」だから来た者は必ず同じ道を戻らなくちゃいけない。実質的な出発点の地方都市から北極海まで、道のり片道900キロ弱は東京〜函館の直線距離に相当し、往復の1700キロ強となると東京〜アラスカの5500キロの三分の一近い。宿泊施設が少ないだけじゃなく、ガソリンスタンドがダルトンは三ヶ所、デンプスターは五ヶ所しかない。パンク対策は勿論だが、対向車の飛ばした小石によるフロントガラス破損にも常に注意が必要だ。私は悪路専用の4WDをわざわざレンタルし直して、この二つの悪路に挑戦した。

 100年前のゴールドラッシュの中心都市ドーソンからクロンダイク街道を1時間走り、頑丈そうな木製の橋を渡るとデンプスターハイウェイが始まる。進むに連れて山が近くに迫り、道は右に左にアップとダウンを繰り返しながら、ひたすら北を目指す。トムストーン辺りで山稜は険しさを増し、日本ではありえないような岩峰・奇峰が見え隠れする。その後、半日走って山の表情はやっと穏やかになり、丘と呼ぶに相応わしいなだらかなアップダウンが目立ってくる。そのど真ん中に中継地点のイーグルプレーンズがある。山や丘と平原のせめぎ合いはしばらく続くが、フェリーで二つの大きな川を渡った辺りで永久凍土=ツンドラが主役になる(地理の授業で"ツンドラ"と習ったが、こちらでは"タンドラ"と発音)。その後は行けども行けどもツンドラ。その只中にあるイヌビクの町は謂わばツンドラのオアシス。更に100キロ走って、最果ての町トクトヤクトクでやっと北極海に達するのだ。

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(左上Aから右へ、最後はL) A日本ではありえないような岩峰 B辺り一面の草原が不思議な幾何学模様を描く Cチョウノスケソウの草原が海のようにどこまでも続く D岩も植物もストライプを描く。地質の関係からか E果てしなく続く直線。ただしツンドラの影響でアップダウンがある F砂埃を上げて疾走するクルマ Gワイパーが効かない H霧が出たらスピードダウン Iやっちまったぜ、パンク J大きな川は橋ではなくフェリーで渡る。無料 Kやっと辿り着いた北極海。感無量 L最果ての集落トクトヤクトク

 

▼【後半】に続く

 

 

 

 

 

(5) 旅のスタイル

 若い時はヒッチハイクで日本中を旅した。社会人になった最初の夏休み、息苦しさから逃げたい一心で津軽をめざした。サラリーマンだからたった5日間の自由時間しかない。「津軽海峡冬景色」じゃないけれど、会社から直接上野発の夜行列車に乗り、翌朝には五所川原駅に降り立った。お盆休みの竜飛岬は観光客が溢れていた。太宰治の斜陽館はあえて素通りし、十三湖を経てどこをどうたどったか、電車とバスを乗り継いで仙台まで戻った。「最後ぐらいヒッチハイクで決めたいな」と郊外の駅まで電車で行き、徒歩で国道に出た。久しぶりのロードサイド。しかし、車は虚しく通り過ぎ、1時間過ぎ、2時間経った。3時間を経過して、もしこのまま車が止まらなかったらどうなるんだろうと考え始めた。なんとか東京に帰り着いても、休む間も無く会社に行かなくちゃいけない。束の間の開放感どころか旅の疲れがどっと出て、、、そもそも、ちゃんとした社会人がヒッチハイクなんかやるわけないって。俺は何を勘違いしてるんだ、未練たらしいことしてんじゃねえよ、、、そこまで考えて、急いで仙台に戻り、東北新幹線で一気に帰った。

 あれから40年経ち、今やっと自由を得た。しかし、ここに至るまでの間に体力は落ちた。人生の残り時間もウン分の一になってしまった。若い時と同じスタイルの旅は無理としても、「年相応」から何歩か踏み外した旅をしたい。私は典型的な「下手の横好き」で趣味が多い。カメラ・フライフィッシング・チョウチョ・登山など。それらの道具以外にも自炊用具やテント関係、春夏秋に対応する服。これだけで大型ダンボール箱5個くらいになる。移動は車無しでは考えられない。山に行く時と同じように小型・軽量化した荷物を車に積み込み、かつ車内で寝れる体制を整えた。

 

 カナダもアメリカも兎に角広くて、こちらの人たちは車などを使って、のんびり時間をかけて旅行している。家財道具一式?みたいのからシンプルに体を張ってのチャリダーまで、それぞれが自分の体力・経済力・好みに合ったやり方で楽しんでいる。日本は狭いところに人がギュと詰まっているし、長い休みはなかなか取れない。だから、近場の温泉でバーンと豪遊というパターンになるのだろう。最近になってやっと「働き方改革」というのが唱えられているが、人生の一番充実した40年間を企業に捧げなくてはいけない日本社会。「本当の豊かさって何なのさ?」と問わざるを得ない。

 

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 ご覧の通りキャンピングカーにも色々あって見ているだけで楽しい。一台百万円くらいから一千万近いのもありそう。でも、旅行そのものはとても質素で、我々日本人とはお金をかけるところが違ってるという感じだ。

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チャリやバイク派は単独または二、三人の小グループが多かった。女の人も結構目についたのには驚いた。最後から一つ手前の写真、ドイツからやって来たおっさん三人組のキャンピングバスの後ろにくっついてるのは、な、なんと小型ヘリコプター。カヤックMTBも積んでて、「すごいね!これじゃ陸海空、行けないとこ無いね。で、ヘリはどこで手に入れたの?」。「うーん、ウォルマート(こちらのヨーカドーみたいなもの)で安く売ってたんだよ、、、ガッハッハ、、、」なんてジャーマンジョークかまされた。最後の写真がキャンピングカー専用のRVパーク。トイレ・シャワー・ランドリーなどの施設が整っている。各地にあって、地方産業の一つとして立派に機能している。

 

でも、もし私が若かったらこれがいいな。

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 しかしだ、今こうして振り返ってみると「アジアのおっさん一人旅」というのには出会わなかった。寂しいような、ちょっとだけ誇らしいような、そんな感じではあるのだが。

(4) クマ探し

 前回少し触れたスピリチャルベアーはダメだった。千キロ走って頑張ったけれど、結局縁がなかったようだ、この手のものには。でも普通のアメリカンブラックベアには何回も会うことができた。アラスカの入り口でこうなんだから、中心へ行ったら一体どうなることやら、、、嬉しい限りだ。

 道路脇に小さな黒い塊がないか注意しながら運転する。草が影になって黒く見えたり、バーストしたタイヤの破片だったりが多いけれど、たまに「フンだ!」というのに出くわす。これは「この辺はクマがいるぞ、多いぞ」という貴重なサインだ。スピードを落として道路脇のブッシュや森の中を注意していると、「あっ、クマだ!」、このパターンがほとんどだ。車からチラッと見て通り過ぎてしまえばそれっきりなのだが(多くの人はそうしてるみたいで実に勿体無い)、車を止めればじっくり見れるし、車を下りれば近くで見れる。さらに近づけば、、、オットットッ、、、あんまり調子に乗ってはいけない。何回も見たから、探し方とか、どういう場所に多いかとか、どのように近寄るか、どこまで近寄れるか、撮影の手順、車の対処など、上手くなってきた。どんなものにもやはり"こつ"というものがある。

①対向車があるときや後ろに車がついている時は運転に集中する。基本的に「見通しのいい前後真っ直ぐの道路に自分の車だけが走っている」状況でないとダメだ。日本だとなかなかない状況だが、こちらでは決して珍しくない。

②クマが出そうな雰囲気のところではスピードを落とす。こちらのハイウェイは普通80〜100キロで走るが、後ろに車がいないのを確認して60キロくらいまで落とす。

③よそ見運転厳禁、と同時にクマのことも常に意識の片隅に止めておく。このバランスが一番難しいかもしれない。

④急なカーブやアップダウンで前後の見通しが悪い場所は、フンがあってもクマがいても諦めて素通りする。

⑤クマがいたら、安全を十二分に確認した上で、静かに車を路肩に止める。クマが逃げないのを確認して、静かにドアを開けて外に出る。ドアは閉めない。音がするし、いざという時に備えて。

⑥クマの様子を見ながら、少しだけ近寄る。逃げない程度に足音を大きくして「人間が近づいている」というのを必ずクマに分からせるようにする。

⑦適正距離の判断も難しい。周辺の地形、足場、クマと車と私との位置関係、クマの表情や様子、単独か複数か、子連れかどうかなどから判断する。私は「ここまでなら大丈夫な距離」+「10メートルの余裕」を保つようにした。クマが自分に向かって走ってくる間に私が車に戻れる「大丈夫な距離」に、焦って転んだりの予想外のことが起こった時を考えて「10メートルの余裕」を持つということだ。

⑧クマの現れる場所は、ハイウェイ横の茂み、場合によってはハイウェイ上。森の中や川岸にはもっと多いんだろうが、そういう"クマの縄張り"には踏み込まない。ハイウェイ沿いだけで十分にクマ観察ができる。

 

 ムービー撮影してる時、それまでのやりとりからして、こちらが近づけば向こうは逃げると予想していたのに、こちらに急に近づいてきたことがあった。「襲う」というよりか「興味を示した」という感じだった。以前、人間からなんらかの「収穫」を得た経験があったのかもしれない。慌てて車に戻ったが、ドアのところで頭をぶつけ、クマは車の前に潜って見えない。えっ、どうなったのと思ったら、後ろから音が聞こえて、ギアをバックにして、いや、それじゃクマを轢いちゃうぞ、PにしたりDにしたり、いや、クラクションだ。クラクションを鳴らして、クマが逃げていくのをバックモニターで確認した。それで終わったけれど、やはり、いくら冷静なつもりでいても、人間、いざとなるとたわいなく慌てる、焦る、間違えるものだと、とてもいい経験だった。

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最後に一言付け加える。上記の内容はブラックベアに限ったことで、グリズリーには全く当てはまらない。また、ブラックベアにしても、アラスカだから成り立つことと思って欲しい。アラスカは自然のスケールが大きく、人間はクマを目の敵にしていない。いわゆる「人とクマとの共存」というのがある程度成り立っているようなのだ。だから、クマがゆったりしている。人間に対して敵愾心を持ってない。地元の人間はブラックベアを特別に危険な動物とは思っていない。人間関係だけでなく、人とクマとの関係においても、土地が広いというのは大きなプラスになっているということだろう。

 

 

 

 

 

 



(3) ベラベラのタマ

 クロクマのシロクマ化したのがいるらしい。白化型、いわゆるアルビノだけど、ファーストネーション(先住民族)は「スピリチャルベアー」として神様のように大切にしてるらしい。私みたいな無信心な人間が厚かましいんだけど、なんとかお目にかかれないものか。手がかりを求めて、ポートハーディーからフェリーで5時間かけてキャンベル島のベラベラという村を訪ねてみた。

 正確な情報は着いた翌日にあっさり分かった。「少なくともこの島にはスビリチャルベアーはいません。行くんならハートリーベイ」。次の連絡船が来る二日後まで、途端にやることがなくなった。午前中は目抜き通り(と言っても徒歩5分で終わってしまう)の脇に車を停めて、ぼーっとしてた。昼からは貯水池ダムに行って、そこは人がほとんど来ない場所だから、うたた寝したりぼーっとしたりした。こちらは日が暮れるのが夜の9時過ぎ。いくら頑張ってぼーっとしてても、夕方くらいになると、ぼーっとするのにもいささか飽きて来る。ほかに行くとこと言ったら、、、飛行場くらいしかないな。じゃ、行って見るか。

 

 小型飛行機が一回来て一回飛び立ったら、誰もいなくなった。飛行場としての役割は本日終了しましたってところだろうな。仕方ない、また、ぼーっとするしかないなとウトウトし始めたら、

f:id:ilovewell0913:20190604045429j:plainタマが現れた。

 

おう、タマ。お前は英語じゃなくてもいいのかな。ちょっくら相手してやっか、、、

タマは私が作った焼きそばを半分食べ、半分を残して何処かへ消えた。おお、そうか。半分は東洋の血が流れているってことだな。お近づきの印にビールでも飲むか。つまみにあれ開けちゃうかな、あれ。ちょっと贅沢だけど。

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とっておきのオイルサーディンの缶詰を開け、ちょっぴり醤油を垂らしてバーナーで温めた。焼きそばには大して感謝もせずに姿をくらませていたタマは、醤油の焦げる匂いにつられてすぐに現れた。なんだかあんまりスピリッチャルじゃないけど、ま、いい。お前、俺と気が合うぜ。じゃあ、おすそ分けな。

あっ、タマが俺の車ん中に入った。ま、いいか。えっ、今度はよその車のタイヤ舐めてる、、、って思ったら、タイヤにくっついてたナメクジ舐めてる。やめなさい、タマ。意外とタマは育ちが悪いのかもしれないなあ。怒られると反省しないでどっか行っちまった。中学生の反抗期と一緒だな、まるで。

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 さて、今夜はどこで寝るか。昨日の郵便局前の駐車場でもいいんだけど、折角タマと友達になったんだから、今日はここで寝てもいいんだが、、、

ガリガリ、、、うっ?、何だ? ガリガリ、、、あっ、タマ、やめなさい。タマが俺の車の下潜って、後輪あたりで爪研ぎだかなんだか知らないけど、ガリガリやってるじゃないか。こら、やめろ!

また、消えた。叱られるとどっか行って、しばらくするとまた現れて、例の中学生反抗期パターン。もう、ガリガリやるなよ。俺は今夜はお前に付き合ってここに泊まる気になったんだから、、、なんて言ってる端からまたガリガリ。タマ、いい加減にしなさい。お前がその態度を改めないんなら、こっちだって友情より車の安全性を取るぞ、冗談じゃなくて、、、なんて説教も、もしかしたら英語じゃなきゃダメなのか、半分、こっちの血だから。ま、しばらく様子を見て、、、なんて悠長なこと考えてたら3回目のガリガリが始まり、そうか、分かった。お前がどうしてもやめないんだから、俺は今夜はここに泊まらない。じゃあな、タマ。あばよ、タマ。

 

今夜のフェリーでベラベラを発つという日の夕方、私はやっぱり気になってタマに会いに行った。最後だから、プレゼントも用意して。

 

もう会うことないんだろうけど、タマ、達者でな。ありがとな。楽しかったぜ、短い時間だったけれど。

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