おやじは荒野をめざす【アラスカ編】

がむしゃらに突き進むおやじに、アラスカは何を与えてくれるのだろう、、、

(4) クマ探し

 前回少し触れたスピリチャルベアーはダメだった。千キロ走って頑張ったけれど、結局縁がなかったようだ、この手のものには。でも普通のアメリカンブラックベアには何回も会うことができた。アラスカの入り口でこうなんだから、中心へ行ったら一体どうなることやら、、、嬉しい限りだ。

 道路脇に小さな黒い塊がないか注意しながら運転する。草が影になって黒く見えたり、バーストしたタイヤの破片だったりが多いけれど、たまに「フンだ!」というのに出くわす。これは「この辺はクマがいるぞ、多いぞ」という貴重なサインだ。スピードを落として道路脇のブッシュや森の中を注意していると、「あっ、クマだ!」、このパターンがほとんどだ。車からチラッと見て通り過ぎてしまえばそれっきりなのだが(多くの人はそうしてるみたいで実に勿体無い)、車を止めればじっくり見れるし、車を下りれば近くで見れる。さらに近づけば、、、オットットッ、、、あんまり調子に乗ってはいけない。何回も見たから、探し方とか、どういう場所に多いかとか、どのように近寄るか、どこまで近寄れるか、撮影の手順、車の対処など、上手くなってきた。どんなものにもやはり"こつ"というものがある。

①対向車があるときや後ろに車がついている時は運転に集中する。基本的に「見通しのいい前後真っ直ぐの道路に自分の車だけが走っている」状況でないとダメだ。日本だとなかなかない状況だが、こちらでは決して珍しくない。

②クマが出そうな雰囲気のところではスピードを落とす。こちらのハイウェイは普通80〜100キロで走るが、後ろに車がいないのを確認して60キロくらいまで落とす。

③よそ見運転厳禁、と同時にクマのことも常に意識の片隅に止めておく。このバランスが一番難しいかもしれない。

④急なカーブやアップダウンで前後の見通しが悪い場所は、フンがあってもクマがいても諦めて素通りする。

⑤クマがいたら、安全を十二分に確認した上で、静かに車を路肩に止める。クマが逃げないのを確認して、静かにドアを開けて外に出る。ドアは閉めない。音がするし、いざという時に備えて。

⑥クマの様子を見ながら、少しだけ近寄る。逃げない程度に足音を大きくして「人間が近づいている」というのを必ずクマに分からせるようにする。

⑦適正距離の判断も難しい。周辺の地形、足場、クマと車と私との位置関係、クマの表情や様子、単独か複数か、子連れかどうかなどから判断する。私は「ここまでなら大丈夫な距離」+「10メートルの余裕」を保つようにした。クマが自分に向かって走ってくる間に私が車に戻れる「大丈夫な距離」に、焦って転んだりの予想外のことが起こった時を考えて「10メートルの余裕」を持つということだ。

⑧クマの現れる場所は、ハイウェイ横の茂み、場合によってはハイウェイ上。森の中や川岸にはもっと多いんだろうが、そういう"クマの縄張り"には踏み込まない。ハイウェイ沿いだけで十分にクマ観察ができる。

 

 ムービー撮影してる時、それまでのやりとりからして、こちらが近づけば向こうは逃げると予想していたのに、こちらに急に近づいてきたことがあった。「襲う」というよりか「興味を示した」という感じだった。以前、人間からなんらかの「収穫」を得た経験があったのかもしれない。慌てて車に戻ったが、ドアのところで頭をぶつけ、クマは車の前に潜って見えない。えっ、どうなったのと思ったら、後ろから音が聞こえて、ギアをバックにして、いや、それじゃクマを轢いちゃうぞ、PにしたりDにしたり、いや、クラクションだ。クラクションを鳴らして、クマが逃げていくのをバックモニターで確認した。それで終わったけれど、やはり、いくら冷静なつもりでいても、人間、いざとなるとたわいなく慌てる、焦る、間違えるものだと、とてもいい経験だった。

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最後に一言付け加える。上記の内容はブラックベアに限ったことで、グリズリーには全く当てはまらない。また、ブラックベアにしても、アラスカだから成り立つことと思って欲しい。アラスカは自然のスケールが大きく、人間はクマを目の敵にしていない。いわゆる「人とクマとの共存」というのがある程度成り立っているようなのだ。だから、クマがゆったりしている。人間に対して敵愾心を持ってない。地元の人間はブラックベアを特別に危険な動物とは思っていない。人間関係だけでなく、人とクマとの関係においても、土地が広いというのは大きなプラスになっているということだろう。